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「クラスター分析」「主成分分析」「因子分析」とは?

はじめに:データの中に隠れた宝物を見つけよう!

みなさん、前回の講座で学んだ教師なし学習を覚えていますか?教師なし学習では、あえて明確な質問や答えを用意しません。 いくつかの学習用のデータをAIに渡すと、AIはデータから共通する特徴を見つけ出し、グルーピングしていく、という学習方法でしたね。

今日は、その教師なし学習で実際に使われる具体的な手法について詳しく学んでいきます。まるで探偵がバラバラの証拠から事件の真相を解き明かすように、データの中に隠れたパターンや法則を発見する魔法のような技術です。

「うちの会社の顧客って、どんなタイプに分かれるんだろう?」 「このアンケート結果、何が重要なポイントなんだろう?」 「複雑なデータを分かりやすくまとめる方法はないかな?」

こんな疑問を解決してくれるのが、今日学ぶ3つの手法です。

1. クラスター分析:「似た者同士」を自動で見つける技術


1.1 クラスター分析って何?

クラスター分析とは、個々のデータから似ているデータ同士をグルーピングする分析手法(教師なし学習)です。

簡単に言うと、大量のデータの中から「似ている仲間」を自動的に見つけて、グループ分けしてくれる技術です。クラスター分析ではグルーピングされたデータの集まりをクラスター(集団)と表現します。

例えば、学校のクラスで身長と体重のデータがあったとします。クラスター分析を使うと、「背が高くて痩せているグループ」「背が高くてがっちりしているグループ」「背が低くて小柄なグループ」といったように、自動的に分類してくれます。

1.2 身近な例で理解しよう

コンビニの店長になったつもりで考えてみましょう。あなたの店には毎日たくさんのお客さんが来ます。「どんなお客さんが多いのかな?」と思ったとき、年齢、性別、購入時間、購入商品などのデータを集めてクラスター分析にかけると、以下のようなグループが見えてくるかもしれません:

  • 朝活グループ:朝早くに来てコーヒーとサンドイッチを買う会社員
  • 学生グループ:放課後におにぎりとジュースを買う高校生
  • 主婦グループ:昼間に冷凍食品と日用品をまとめ買いする主婦
  • 深夜グループ:夜遅くにお酒やつまみを買うサラリーマン

こういう分析ができると、それぞれのグループに合わせた商品配置や販促ができるようになりますね!

1.3 クラスター分析のメリット

クラスター分析の最大のメリットは、大量のデータを単純化して理解、考察しやすくしてくれるところです。

具体的なメリットを見てみましょう:

📊 データの理解が簡単になる 数千、数万のデータも、数個のグループに分けることで全体像が見えやすくなります。

💡 隠れたパターンの発見 人間では気づかないようなデータの特徴やパターンを発見できます。

🎯 戦略的な意思決定が可能 顧客をグループ分けできれば、それぞれに合ったマーケティング戦略を立てられます。

1.4 クラスター分析の種類

クラスター分析には"階層性クラスター分析"と"非階層性クラスター分析"の2種類の方法があり、目的に応じて使い分けるという特徴があります。

階層クラスター分析 木の枝分かれのように、段階的にグループを作っていく方法です。最初は全員が別々のグループで、似ているもの同士を順番に結合していきます。

非階層クラスター分析(K-means法など) 最初にグループ数を決めて、データを各グループに振り分けていく方法です。計算が早く、大量データにも対応できます。

1.5 注意すべきポイント

クラスター分析はデータの類似度を算出する基準が複数存在し、どれが最適かはデータによって変わるという特徴があります。

また、クラスター分析によって生成された各クラスターの特徴や意味は、自分で考察しなければならないという点も重要です。

つまり、クラスター分析は「グループ分けまでは自動でやってくれるけれど、そのグループが何を意味するかは人間が考える必要がある」ということです。

「AIが『グループA』『グループB』って分けてくれたけれど、グループAは何の特徴があるの?」と思った人もいるのではないでしょうか?まさにその通りで、分析結果を見て「このグループは○○の特徴がある顧客層だな」と解釈するのは人間の仕事なのです。

2. 主成分分析:複雑なデータをシンプルにまとめる技術


2.1 主成分分析って何?

たくさんの変数を少ない変数に置き換え要約することで、データを理解しやすくする分析手法。主成分分析では、データを1〜3つの変数(=主成分)に置き換えることが一般的です。

主成分分析 (Principal Component Analysis) は次元削減 (Dimensionality reduction) の手法です。次元削減とは、例えば 4 次元のデータ(列数が 4 つのデータ)があった場合、2 次元などの低次元に落とし込むことを指します。

簡単に言うと、複雑で理解しにくいデータを、重要な情報を保ったまま、もっと分かりやすい形にまとめ直す技術です。

2.2 身近な例で理解しよう

学校のテストを例に考えてみましょう。ある生徒の成績が以下のようだったとします:

  • 国語:80点
  • 数学:85点
  • 英語:78点
  • 理科:90点
  • 社会:75点

この5教科の成績から、その生徒の「総合学力」を表す一つの指標を作りたいとします。単純に平均を取ることもできますが、教科によって平均点に差が出てしまうため平均点が高い科目が得意な人が有利になってしまいます。そういったパターンを避けるために主成分分析は利用されます。

主成分分析では、各教科の重要度を自動的に計算して、最も情報量の多い「第一主成分」として「総合学力」を算出します。第一主成分は、一般的に分析に使用した対象の総合力を示します。

2.3 主成分分析の目的と効果

主成分分析は人間にとってわかりやすいデータを構築するための手法の1つです。

主成分分析の主な目的は以下の通りです

  • 次元削減(データの圧縮)
    主成分分析を使えばデータの情報量をなるべく減らさずに変数の数を減らすことができます。
  • データの可視化
    第1主成分得点と第2主成分得点を使用することで、多くの変数を持つデータの可視化(グラフ化)が可能となります。
  • 総合評価の算出
    主成分分析は、分析対象の総合力を把握し総合力トップを選出したいような場合に使われることの多い分析手法です。

2.4 実際の活用場面

主成分分析は様々な場面で活用されています

顧客満足度調査 アンケートで「価格」「品質」「サービス」「立地」など複数の項目を聞いた場合、主成分分析で「総合満足度」を算出できます。

商品評価 商品の「デザイン」「機能性」「価格」「ブランド」「耐久性」といった多面的な評価から、「総合評価」を導き出せます。

人事評価 従業員の「技術力」「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」「協調性」などから「総合人事評価」を算出できます。

2.5 主成分分析のメリットとデメリット

メリット 主成分分析のメリットとして、変数をまとめることで分析者が扱うデータ数が少なくなるために調査査結果が格段に理解しやすくなることが挙げられます。

主成分分析では、対象データの総合力そのものだけでなく、総合力に影響している項目まで把握できるのもメリットです。

デメリット 主成分分析を行うと、計算で自動的に主成分を作成することが出来ます。しかし作成した主成分がどのような意味を持っているのかは、自力で考察する必要があります。

また、主成分分析を行うと大量のデータを要約できる一方で、一部のデータを切り捨てなくてはならないというデメリットも生じます。

3. 因子分析:データの背後にある「真の原因」を探る技術


3.1 因子分析って何?

因子分析とは、実験や観測などで得られたさまざまな要素(観測変数)の背後にある潜在的な原因(因子)を明らかにする方法です。

因子分析とは、消費者に調査した質問の結果から、消費者心理の背後にある「隠れた原因(潜在意識)」を発見するための分析手法のことです。

つまり、目に見える結果の背後にある、目に見えない原因を発見する技術です。

3.2 身近な例で理解しよう

学校のテストの例を使って、因子分析を理解してみましょう。

ある生徒の成績が以下のようだったとします

  • 国語:高得点
  • 英語:高得点
  • 古文:高得点
  • 数学:低得点
  • 物理:低得点

この結果を見ると、「この生徒は文系科目が得意で、理系科目が苦手」ということが分かります。因子分析では、この成績パターンの背後にある潜在的な能力として「文系因子」と「理系因子」を発見することができます。

因子分析は、およそ120年前、英国ロンドン大学の心理学の教授であったチャールズ・スピアマンによって提唱されました。元々は生徒たちの「知能」という目に見えないものを測定するために生まれたといわれています。

3.3 主成分分析との違い

因子分析と主成分分析は似ているようで、実は考え方が真逆なのです。

主成分分析は多数の観測変数から少数の主成分という合成変数を作り出す手法で、観測変数と主成分の因果関係をパス図に描くと次のようになります。主成分分析では観測変数が原因で主成分は結果です。

一方、因子分析は観測変数に影響を与えている共通因子を抽出する方法で、観測変数と因子の因果関係をパス図に描くと次のようになります。因子分析では(共通)因子が原因で観測変数が結果と主成分分析とは因果関係が逆になります。

簡単に言うと

  • 主成分分析:テストの点数(原因)→ 総合成績(結果)
  • 因子分析:文系能力・理系能力(原因)→ テストの点数(結果)

「なるほど、矢印の向きが逆なんですね!」と思った人もいるのではないでしょうか?まさにその通りです。主成分分析は「見えているデータから要約を作る」のに対し、因子分析は「見えているデータの背後にある原因を探る」のです。

3.4 因子分析の活用場面

マーケティング調査 商品への満足度アンケートから、「品質重視因子」「価格重視因子」「ブランド重視因子」などの潜在的な顧客価値観を発見できます。

心理学研究 性格診断テストの結果から、「外向性因子」「神経症傾向因子」「開放性因子」などの人格特性を抽出できます。

組織分析 従業員満足度調査から、「人間関係因子」「待遇因子」「成長機会因子」などの組織課題を特定できます。

3.5 因子分析のメリットとデメリット

メリット 因子分析を行うメリットは、潜在的なニーズを定量的に効率よく調査できることです。

因子分析では、収集したデータを使って定量的に因子を特定するため、起こっている現象の原因を、思い込みに頼らずに調査できます。

デメリット 因子分析では、主成分分析よりも分析者の意図が入り込みやすく、客観性に欠けるデメリットがあります。しかしある程度分析者の意図に沿って分析結果が提示できるため、交渉や説得が必要な場面ではメリットでもあります。

また、因子分析によって抽出された各共通因子の意味は自身で考察しなければならないため、分析をする前に仮説を立てておくことが重要という点も注意が必要です。

4. 3つの手法の使い分け:どんな時にどれを使う?


4.1 分析目的による使い分け

それぞれの手法には、得意な分析場面があります

クラスター分析を使うべき場面

  • 顧客をタイプ別に分類したい
  • 商品を特徴別にグループ分けしたい
  • データ全体の構造を把握したい
    主成分分析を使うべき場面
  • 複数の評価項目から総合評価を作りたい
  • データの次元数を減らして可視化したい
  • ランキングや順位付けをしたい
    因子分析を使うべき場面
  • アンケート結果の背後にある心理を知りたい
  • データに影響を与えている要因を特定したい
  • 理論的な仮説を検証したい

4.2 組み合わせて使うことも可能

実際のデータ分析では、これらの手法を組み合わせて使うことも多くあります。

例えば

  1. 因子分析でアンケートデータから潜在因子を抽出
  2. 主成分分析で因子得点から総合評価を算出
  3. クラスター分析で総合評価を基に顧客をグループ分け

このように段階的に分析を進めることで、より深い洞察を得ることができます。

5. 実際に試してみよう!おすすめツール紹介


5.1 PowerBI:初心者に優しい分析ツール

Microsoft Power BIは、Excel初心者でもすぐできる手軽さで、本格的なBI(Business Intelligence)ツールとして利用できることから、非常に高い人気を誇っています。

PowerBIのメリット

  • 無料で始められる:PowerBI Desktopは無料でダウンロード可能
  • 直感的な操作:ドラッグ&ドロップで簡単に分析できる
  • 豊富な機能:クラスター分析も標準機能として搭載

PowerBIでできること

  • ExcelファイルやCSVファイルの読み込み
  • 自動的なクラスター分析
  • インタラクティブなグラフ作成
  • ダッシュボードの作成と共有

5.2 Excel:身近なツールでも分析可能

「PowerBIはまだハードルが高い...」と思った人もいるのではないでしょうか?実は、Excelでも基本的な分析は可能です。

Excelでできる分析

  • 散布図を使った簡単なクラスター分析
  • ピボットテーブルによるデータ集約
  • 分析ツールパックを使った主成分分析

ただし、Excelは手作業が多くなるため、本格的な分析には限界があります。

6. 実際の分析事例:レストランの顧客分析


6.1 ケーススタディ:チェーンレストランのデータ分析

あるチェーンレストランが、顧客満足度向上のために以下のアンケートを実施したとします

アンケート項目(5点満点)

  • 料理の味
  • 料理の価格
  • サービスの質
  • 店内の雰囲気
  • 立地の便利さ

それぞれの手法による分析は以下のように行われます。

クラスター分析の場合
顧客を評価パターンによって分類

  • グルメ重視グループ:味と雰囲気を重視、価格は気にしない
  • コスパ重視グループ:価格と立地を重視、味はそこそこでOK
  • サービス重視グループ:サービスの質を最重要視
  • バランス重視グループ:すべての項目で中程度の評価
    主成分分析の場合
    「総合満足度」を算出し、各店舗をランキング
  • 第一主成分:総合満足度(全項目の重み付き平均)
  • 第二主成分:グルメ度 vs コスパ度
    因子分析の場合
    評価の背後にある潜在因子を発見
  • 品質因子:味と雰囲気に影響
  • 利便性因子:価格と立地に影響
  • ホスピタリティ因子:サービスの質に影響

6.2 分析結果の活用方法

クラスター分析の結果活用

  • グルメ重視グループ向け:高級食材使用メニューの開発
  • コスパ重視グループ向け:お得なセットメニューの充実
  • サービス重視グループ向け:接客研修の強化

主成分分析の結果活用

  • 総合満足度の低い店舗の改善施策検討
  • 満足度の高い店舗のベストプラクティス共有

因子分析の結果活用

  • 品質因子が低い店舗:シェフの技術研修
  • 利便性因子が低い店舗:価格見直しや立地戦略
  • ホスピタリティ因子が低い店舗:接客マニュアル改善

7. よくある質問と注意点


7.1 「どの手法を選べばいいの?」

これは初心者の方が最も悩む点ですね。以下の質問で判断してみてください

Q1: データをグループに分けたいですか? → YES なら クラスター分析

Q2: 複数の項目から一つの総合評価を作りたいですか? → YES なら 主成分分析

Q3: データの背後にある原因を知りたいですか? → YES なら 因子分析

7.2 「分析結果が意味不明です...」

分析結果の解釈は確かに難しいものです。以下のコツを覚えておきましょう

解釈のコツ

  1. 事前に仮説を立てる:「こんな結果になるのでは?」と予想する
  2. 業務知識を活用する:分析対象の業界や顧客について知っていることを使う
  3. 複数の人で議論する:一人で考え込まず、チームで解釈を検討する
  4. 結果を可視化する:グラフにすることで理解しやすくなる

7.3 「データの品質が心配です...」

「ゴミを入れればゴミが出る(Garbage In, Garbage Out)」という言葉があるように、分析結果の品質はデータの品質に大きく依存します。

データ品質のチェックポイント

  • 欠損値(空白)が多すぎないか
  • 異常値(極端に大きい・小さい値)はないか
  • データの分布が偏りすぎていないか
  • サンプル数は十分にあるか

8. 次のステップ:さらなる学習のために


8.1 実践的な学習方法

ステップ1:ツールに慣れる まずはPowerBI Desktopをダウンロードして、サンプルデータで基本操作を覚えましょう。

ステップ2:身近なデータで実践 自分の家計簿や、会社の売上データなど、身近なデータで分析を試してみましょう。

ステップ3:学習コミュニティに参加 Power BI 勉強会では、ほんとに勉強になります。以前の資料なんかも公開されていますよ。こうした勉強会に参加することで、実践的な知識を得ることができます。

8.2 キャリアへの活用

これらの分析手法を身につけることで、以下のような場面で活躍できます

マーケティング担当者

  • 顧客セグメンテーション
  • 商品ポジショニング分析
  • キャンペーン効果測定
    営業担当者
  • 顧客の特徴分析
  • 売上予測モデル構築
  • 提案資料の説得力向上
    企画・戦略担当者
  • 市場分析
  • 競合分析
  • 事業戦略立案
    人事担当者
  • 従業員満足度分析
  • 採用選考基準の最適化
  • 人材配置の最適化

終わりに


データ分析は決して難しいものではありません。料理のレシピのように、基本的な手順を覚えれば誰でもできるようになります。大切なのは、「まずはやってみる」という気持ちです。

今日学んだ3つの手法は、データ分析の世界への入り口に過ぎません。これらをマスターすることで、より高度な機械学習や生成AIの活用にもつながっていきます。

「データって面白いかも!」と思えたら、もうあなたはデータアナリストへの第一歩を踏み出しています。次回は、これらの分析結果をどのようにビジネスに活用するかについて学んでいきましょう!

頑張って分析ライフを楽しんでくださいね!

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